Hamamatsu Arts & Creation 浜松アーツ&クリエイション

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浜松から世界へ 第10回浜松国際ピアノコンクールの優勝者 ジャン・チャクムル

映画『蜜蜂と遠雷』をご覧になって、ピアノ・コンクールに興味を持たれた方も多いのではないでしょうか?
昨年11月に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールの優勝者、ジャン・チャクムルさんにお話を伺いました。現在、今年4月から始まった全国20ヶ所におよぶ日本ツアーの最中です。

Q :17公演が終わったところですが、日本のお客様はいかがでしたか?

音楽に対して知識も深く、凄く集中して聴いてくださる、ピアニストにとって理想的な聴衆です。日本のお客様とあまりお話をする機会はないのですが、コンサート後のサイン会などで少し接する機会があって、その時のお客様の表情で楽しんでいただいたのがわかって嬉しかったです。

Q:コンクール後、かなり生活が変わったのではないかと思いますが、事前に想像していましたか?

僕はあまり自己アピールなどが得意ではありません。コンクールを受けた理由は、ここで優勝すれば、自分で積極的にプロモーションしなくても、コンサート開催への道が開けると思ったからです。浜松のように、コンクールだけで終わってしまうのではなく、その後にこうして日本ツアーを設定していただけたのは、とてもありがたいことです。ただ、オーケストラと共演にあたっては毎回コンチェルトの曲が変わるので、準備が大変ですけれども。それから、インターネット配信を通して、全世界から80万人以上の方が聴いてくれたということにもびっくりしました。

Q:日本のオーケストラとの共演はいかがでしたか?

日本の指揮者の方も含めて、とてもやりやすかったです。何よりも、僕の音楽に合わせてくれようとする姿勢があります。ただ、日本は公演のプログラムも含めていろいろなことがかなり前から決まっているので、なかなか僕の希望だけを通すということはできませんでしたが、そうした調整も含めて、「何が可能で、何ができない」ということをはっきり伝えてくれるので、理解して対処しやすかったです。

楽器の街の音楽コンクール

Q:コンクールの間は大変な日々でしたか?

もちろん、自分の音楽が評価される訳ですから、何か月も前から曲の表現について作りこんでいくということや練習の時間など、大変でした。でも、僕にとってはとても楽しい時間でした。よく、「コンクールではコンテスタントが互いにライバルで、ピリピリした空気の中で足を引っ張りあって、、、」みたいに言われるでしょう? 今回は、全然そんなことはありませんでした。特に一次予選の頃がとっても楽しかった。お互いに同じ目的に向かう仲間として互いにサポートしあったりして、良い友人に巡り合えた時間でした。むしろ、大変なのは優勝した後の方かな? 取材やツアーの準備などで忙殺されましたので。

浜松のコンクールの特徴としては、ピアノが素晴らしかった。本番に向けて万全な調律がなされ、ステージではいつも素晴らしい状態のピアノを弾くことができます。
公式ピアノメーカーの調律師の皆さんは、僕らと同じくらい(笑)真剣に取り組んでいらっしゃいました。

一般的にはあまり理解されていないことですが、ピアノのコンサートにとって、ピアノは影の主役のような存在と言っても過言ではありません。ピアニストは、通常、その会場にあるピアノを弾かなければならない。そのピアノの性能や性格によって、ピアニストは弾き方を変えなければならないんです。

私は3台の公式ピアノからKAWAIを選択したわけですが、今回の日本ツアーではKAWAIが全会場にコンディションの良いピアノを準備してくださり、優秀な調律の方もついてくれています。これは本当に助かります。ピアニストとしてはとても贅沢な環境だと感じています。
今回、ツアーを通してKAWAIさんとやり取りさせていただくことが多かったのですが、
その独特なピアノ作りの方向性について、感銘を受けました。KAWAIはそれぞれのピアノに個性を持たせようとしています。社内の各ピアノ・ビルダーが『自分にとっての理想のピアノ』を一から作り上げている。今では、「このピアノを作ったのはあの方でしょう?」と言い当てられるようになりました。そのくらい、一台一台が違う。これは万人に支持される訳ではないリスキーなアプローチではあるけれど、自分に合う一台のピアノに巡り合えたら、ピアニストにとっては、とても幸せなことだと思いました。

音楽と各国の文化の関連性

Q:チャクムルさんはトルコ出身ということですが、自分の音楽性において母国の文化の影響を感じることはありますか?

僕はトルコの伝統音楽については、それほど詳しい知識を持ち合わせてはいません。

僕が『ピアニストになりたい!』と本気で思うようになったきっかけは、2010年にベルギーで行われたワークショップに参加した時でした。そこには世界中からクラシック音楽を目指す若者たちが集まっていて、僕は初めて自分が属する世界を見つけたと感じたのです。国籍や人種に縛られない、ただ純粋に優れた音楽を追求する仲間たち、それを許してくれる世界。すごく開放感があって、そういう世界で生きていきたいと思い、音楽の世界を目指すことにしました。だから、あまり人種や国籍を意識することはありません。

ただ、音楽には、その音楽が作られた国の言語の影響はあるんです。言葉のイントネーションやアーティキュレーションがメロディや音楽そのものに無意識に反映されている。僕は今、トルコ語、英語、ドイツ語、そしてイタリア語を少し使えますが、フランス語はまだしっかりと身に着けてはいません。ですので、フランスの曲は深い理解にたどり着けていない気がしてあまりコンサートで取り上げてはいません。

クラシック音楽の素晴らしさをより多くの人に伝えていくために

Q:日本ツアーは来年2月9日のアクトシティ浜松での公演までしばらく続きますが、その後の予定は?

まずは現在学んでいるワイマール音楽大学をきちんと卒業すること。ドイツの居住権を確保するためにも大学卒業という資格はとても重要なのです。その後はヨーロッパでもいくつかリサイタルの計画があるので公演を行っていきます。日本にも、またぜひ来たいと思います。それから、クラシックだけでなく、もっと幅広い音楽を学んでいきたいと思っています。ジャズのアドリブからも学べることがあるのでは、と思っています。

トルコ出身のピアニストでファジル・サイがいますが、トルコでは彼のクラシックのアルバムがポップス・チャートの一位を獲得しました。その独特のキャラクターによる人気もありますが、ピアノの演奏をするだけではなく、アニメ作品の音楽を書いたり、幅広い活動をしています。活動の幅を広げれば広げるほど、活動の質の高さを保つための勉強も沢山必要になってきます。誰からもそんな事要求されていないのに、です。僕が彼と同じアプローチをとれるとは思っていないけれど、クラシックの音楽でそれだけ多くの人たちに受け入れられた、という事実は認めるべきだと思います。クラシック音楽の市場はほっておけば縮小するばかりです。優れた音楽をより多くの人に届けるための僕自身のアプローチはまだ見つかっていないけれど、狭い世界に留まることなく、いろいろなものを学んで吸収していきたいと思っています。

Q:これからピアニストを目指す若い方たちにメッセージをいただけますか?

僕はまだ”プロ”として活動し始めて二年目なので、僕自身がまだ学び続けている状態です。
ただ一つ言えるのは、プロのピアニストになるというのは、“音楽に人生を捧げる”ということですから、一般的な”幸せ”な生活をあきらめることにもなる、その覚悟が必要だと思います。でも、それを超える“幸せ”を手にすることができる、というのは、音楽を目指している人ならわかっていることだと思います。

■ 2020年2月9日(日)には、アクトシティ浜松中ホールにて、ジャン・チャクムルさんが出演する静岡交響楽団のコンサートが開催されます。

●プログラム
・エルガー/弦楽のためのセレナーデ ホ短調 op.20
・グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
・チャイコフスキー/交響曲第6番 ロ短調「悲愴」op.74

【指揮】高関健【ピアノ】ジャン・チャクムル【管弦楽】静岡交響楽団

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