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2025.03.13BLOG

ドコデモアルトメンバーが語る!展示会「クリスマスのまえのよる」誕生秘話

 

 

2024年12月に、浜松市西部のイオンモール浜松志都呂で開催された「クリスマスのまえのよる」。「クリスマス前夜」をイメージした作品・ワークショップ・パフォーマンスが集う、賑やかなイベントとなりました。

 

ふだんの展示会は、浜松アーツ&クリエイション(以下、浜松A&C)が企画から開催までを担うことがほとんどです。一方、このクリスマスのまえのよるは、「ドコデモアルト」プロジェクトの企画チームに所属する4人の一般アーティストが、ロゴやチラシ制作・広報など、開催準備におけるすべての工程に関わりました。

 

今回は、そんなドコデモアルトメンバーに、プロジェクト誕生からイベント開催までの一部始終を聞きました。

 

■ドコデモアルトメンバー プロフィール----------

◎中村和也(浜松A&C職員)
ドコデモアルト発起人。文化芸術活動をしている方と出会い、お話を聞き、人・モノ・コトを繋ぐ活動をしている。

◎尾内甲太郎(言語活動家)
詩歌を創作するかたわら、静岡県西部で詩歌イベントを多数企画。「詩丼」主催・ 「ポエデイ」副代表など。旅先で美術館を見つけたら必ず入る美術好き。

◎金田直美(グラフィックデザイナー)
広告代理店に勤務したことをきっかけにグラフィックデザインに携わる。小さいころから好奇心旺盛で、現在もピアノや絵画、観劇など幅広い芸術を楽しんでいる。

◎常石さやか(チター奏者)
ドイツの音楽大学在学中、現地の民俗音楽家の姿に感銘を受け、南ドイツの楽器・チター奏者に転向。近年は音楽人形劇や親子コンサートなどを開催している。

◎瀬口あやこ(あにぃ)(作家&取材ライター)
取材記事や短編小説をメインに活動中。温かく奥行きを持ったストーリーが好き。本記事の執筆を担当。

 

 

1. それぞれの想いで集まったプロジェクトメンバー

 

 

瀬口:「アーティストが展示会を企画する」というのは浜松A&Cの中でも新しい試みとのことですね。中村さんがこの取り組みに思い至った経緯はなんだったのでしょう?

 

中村:アーティストさんにヒアリングをする中で、「発表の場がない」という声を聞くことが多くて。同じ悩みを持つ方に集まってもらい、展示だけでなく「企画」をすることで、自ら場や機会をつくる体験をしてもらおうと考えたのがきっかけです。
それに、一般の方に話を聞くと「アート=高尚で取っ付きにくいもの」というイメージがあるなと以前から感じていました。そこで、誰でも気軽に来てもらえるような展示会をアーティストさんと一緒に企画したいと考えたんです。今回は最初ということで、困っている方を募るというよりは、直近のイベントなどで関わりのあったみなさんにこちらからお声がけさせていただきました。

 

瀬口:以前参加した浜松A&C主催の展示会がとても楽しかったこともあって、今回もどんな形でも参加できたらと思っていました。まさか企画から関わらせていただくことになるとは思っていなかったのですが…!(笑)
皆さんはどのように参加を決めましたか?

 

金田:私は、楽しくかつ気軽にアートに触れてもらいたいという気持ちが以前からあったので、展示会のコンセプトに興味を持って参加してみたいと思いました。会期までの期間が短いのはわかっていましたが、仕事柄企画にも慣れているし大丈夫だろうと。

 

尾内:僕もなんとかなるだろうと思っていましたね。普段から詩歌に関するイベントをしていますが、個人的には最悪ブルーシート1枚敷いてそこに作品を並べれば立派な展示になるという感覚もあったし(笑)。それに、誰でも発表でき見に来れる、フラットな展示会を企画できるという点にも惹かれました。

 

瀬口:常石さんの参加のきっかけもお伺いしていいですか?

 

常石:私が中村さんと知り合ったのは、10年ほど前、街の活性化を目的とした音楽イベントの企画ノウハウが学べる講座だったのですが…昨年久しぶりに中村さんとお会いしたとき、当時のことを思い出して「アートで浜松をもっと盛り上げたいです。もしアーティストさんを集めてイベント企画をする機会があれば呼んでください!」とお伝えしました。そうしたら数ヶ月後に今回のお話をいただいて、二つ返事でお受けしたんです。

 

 

2. メンバー手作り!プロジェクト名からイベントの中身まで

 

 

中村:当日までに4回ほど会議をしましたが、第1回目の会議後に宿題で「アイデアノート」をそれぞれに書いていただきましたよね。イベントのターゲットや内容案を出す中で、尾内さんが挙げた「ドコデモアルト」という名前を、プロジェクト名に採用させていただくことになりました。

 

尾内:中村さんの想いを最初の会議で聞いたとき、「アートを身近に楽しめる場に」と言っていたのが印象的だったんです。でも、「アート」と聞くとちょっと身構えてしまう。かといってアートという言葉から離れすぎると、名前を聞いたときに内容がイメージしづらくなる。そこで思いついたのがエスペラントを使う案です。

 

瀬口:私は尾内さんに聞いて初めてエスペラントを知りました。国際交流や相互理解のために考案された「国際補助語」なんですよね。

 

尾内:そうです。エスペラントでアートを意味する「アルト」を使えば、言葉のイメージが離れすぎず、柔らかい感じも出せていいのではと思いました。これに「どんな場所でも開催できるイベント」という意味を込めて日本語の「どこでも」をくっつけて、「ドコデモアルト」という名前を考案したんです。

 

中村:私も個人的にプロジェクト名を考えてはいましたが、尾内さんの案がすてきだったのでぜひこの名前でいきたいと思いました。

 

瀬口:次に考えたのはプロジェクトのロゴです。最終的に扉から6つのボールが飛び出しているロゴに決まりましたが、最初は他にも候補がありました。これは金田さんが自主的につくってくださったんですよね。数日で4つも案が送られてきてびっくりしました。

 

 

 

 

金田:とにかく決めないと前に進まない!って、焦ってたんです(笑)。なのでここは勝手にやらせてもらおうと思って、シンプル系からかわいいものまで、いろいろつくってみなさんに送りました。

 

 

 

 

金田:「アートをいろんな場所へ持ち出す」という意味で最初に頭の中に浮かんだのは3です。次に、シンプルな感じが良いかも、と中村さんに言われて、1と2を思いつきました。個人的な好みは4なのですが、プロジェクトの今後を考えると1かなと思っていました。

 

中村:私は「作品を持ち出す」「いろんな場所に展示する」という意味で3かも、という気持ちはありましたが、どれも良いなと感じていたので、多数決に従うつもりでした。最終的には1にみなさんの票が集まったので、このロゴを使わせていただくことになりました。

 

金田:プロジェクト名やロゴとほぼ同時にイベント内容も考えました。イオンホールの借用時期が12月14〜23日と決まっていたので、大きなテーマとして「冬至祭」や「クリスマス」が挙がっていました。

 

常石:「冬至」というキーワードを出したのは私でしたが、いざタイトルに落とし込むとなると難しいねということで、「クリスマス」に決まりましたよね。

 

瀬口:最終的にイベント名を考案したのも常石さんでしたね。「クリスマスのまえのよる」はどのように思いつきましたか?

 

常石:私は学生時代にドイツ留学をしていたのですが、ヨーロッパは12月になると毎週日曜日にキャンドルに灯をともしてお祝いするんです。日本のクリスマスといえばイブと当日だけのイベントになりがちです。でも、海外はクリスマスまでの期間も楽しむ習慣があるのを思い出して、このイベントでもクリスマス前のワクワクをみんなで共有できたらという想いを込めて、「クリスマスのまえのよる」を提案しました。

 

中村:満場一致で名前が決まってすぐ、常石さんの妹さんにSNSで使用するバナー画像も作っていただいて。告知するにも画像があったほうが見ていただきやすいので、とても助かりました。

 

常石:妹はデザイナーなのですが、私のコンサートでいつもチラシをつくってもらっているんです。今回も手伝ってくれそうだったので、お願いしてみました。

 

瀬口:候補は2パターンあって、投票で右側に決まり、この後に3回目の会議があって、チラシ作成も妹さんにお願いすることになって…。私は常石さんの案をベースに、チラシに載せる紹介文を書かせていただきました。

 

 

  

 

 

常石:すでに10月末で、かなり急ピッチで進めなければと慌ててレイアウト案や文章を考えましたよね。妹も入稿期限ギリギリまで試行錯誤していました。

 

 

  

 

 

瀬口:当日は会場内で共同制作イベントも開催しました。白い家が印刷された「ねがいごとカード」に「クリスマスにかなえたいこと」を書いて会場の真っ黒なシートに貼る、というものでした。これも常石さんが素案を考えて、みんなで肉付けしていきましたよね。

 

常石:コンサートでは、来てくれた人とどうやって一体感を持つかというのをよく考えるんです。イベントでも、暗闇に灯をともすように制作に参加してもらうことで、来場された方も一体感を持てるのではないかなと考えました。

 

金田:そもそも、共同制作をしたいということ自体は最初から中村さんが提案していましたね。

 

尾内:そうだった。最初は、ペットボトルのキャップを持ち寄ってアート作品を作ろう、という案だった記憶が…

 

中村:そんなことも言っていましたね(笑)。イベントをただの「合同展示会」で終わらせないために、みんなでつくる作品をひとつ用意して会場の一体感を保ちたいという想いがあったんです。

 

 

▲ねがいごとカード

 

 

▲共同制作のようす

 

 

3. 応募がなかなか増えず…広報に奔走する日々

中村:10月初旬に展示参加の募集を開始したわけですが、10日ほど経っても全然応募が増えず、少し焦りました…。浜松A&Cの公式SNSで呼びかけたりアーティストさんにメールを送ったりして、一生懸命広報活動をしました。

 

尾内:僕は、浜松駅前で開かれた談話イベントに来ていた人に直接宣伝しました。そうしたら、知り合いが家族ぐるみで出展してくれることになりました。

 

瀬口:私もXのラジオ機能でフォロワーに呼びかけたところ、応募してくれた方がいました。常石さんのご紹介で参加したアーティストさんも多かったですよね。

 

常石:いつもお手伝いをしているマルシェの主催者さんに宣伝をお願いしたら、お知り合いに連絡を取ってくださったんです。皆さん「喜んで!」という感じで嬉しかったですね。

 

金田:私も知り合いに宣伝したり、写真家の主人を誘ったりしました。主人のぶんは私が代わりに応募したのですが、ちょっと応募フォームがわかりづらいなと感じて。項目も多いし、ごちゃごちゃしていたので、ここで挫折してしまう方もいらっしゃるんじゃないかなという予感が…。

 

中村:金田さんに「まずはエントリーする」くらいの軽い気持ちで書き込んでもらえるボリュームに絞ったらどうかと提案いただいて、すぐにフォームを簡略化しました。するとそこからさらに応募が増えました。これは浜松A&Cの他のイベントでも参考にしたいと思っています!

 

瀬口:一般来場者を増やすために、チラシ配りもみんなで協力して行いました。私はあまり知り合いがおらず、よく行く図書館に配架をお願いするのがやっとでしたが、尾内さんはお店にたくさん配っておられましたよね。

 

尾内:行きつけのカフェとか古本屋さんとか、お弁当屋さんとかね。手提げカバンに常にイベントチラシを入れて持ち歩いて、店内にイベントやアート関係のチラシが置いてあるのを見つけたら「ちょっとこれも置かせてもらえませんか」って聞いていました。

 

金田:私は主人のフォトスタジオに貼ってもらいました。掲示するにはちょっと小さかったので、ポスターサイズがあればいいのにね、なんて言いながら…(笑)。紹介した出展者さんにもチラシを渡したら、いろんなところで配ってくださったみたいです。

 

 

 

 

瀬口:あとは私が会期中に会場を撮影して、SNS掲載用のイベント告知動画を作らせていただきました。

 

常石:会場の雰囲気がわかる内容でよかったですよね。見た方もイベント企画者を身近に感じられたのではないでしょうか。

 

中村:今までSNSはイベント前後にポツポツとおしらせを載せるくらいだったんです。でも今回はイベント中にもたくさん投稿していたので、いろんな人に「浜松A&C、急にどうしたの?すごく頑張ってるね」と言われました。新しい取り組みが企画メンバーの中から生まれたことは、私たちとしてもとてもありがたかったです。みなさんおひとりおひとりのアイデアでイベントを形にすることができました。

 

 

4. 無事に開催へ。横の糸も縦の糸もつむぐイベントに

瀬口:募集の結果、最終的には28の出展者さんが集まりました。中村さんは何度も会場レイアウトを練り直していましたよね。

 

中村:今回はどれくらい応募があるか読めず、締め切ってからスケジュールやレイアウトを考えたので…まさに嬉しい悲鳴でした。

 

瀬口:私は毎日在廊していたのですが、パフォーマンスやワークショップは土日だけだったので、平日はのんびりとした雰囲気でした。でも、そのぶんじっくり展示を見て行かれる方が多かったです。共同制作のねがいごとカードは子どもたちにも人気でしたが、ご年配の来場者さんが喜んで記入しておられたのも印象的でした。

 

金田:確かに、平日に会場を覗いたら、意外と人がいて驚きました。「来てくれてる!」って嬉しくなりましたね。1回目だったし時間もなかったので、イベントの内容としては至らなかったところもたくさんあったと思いますが、全体的にはよかったのではないでしょうか。

 

中村:出展者さんからも、「自分の作品をたくさんの人に見てもらえた」「新しいお客さんとの出会いがあった」といった声がありました。

 

 

▲会期中のようす(一部)。作品展示のほか、ワークショップやパフォーマンスも

 

 

常石:イベント後に出展された方とお会いする機会があったのですが、「次の作品をつくるモチベーションが高まりました!出てよかったです」とおっしゃっていました。私自身も、会場で他の出展者さんとゆっくりお話ができて新しい繋がりができました。今回出会った方とコラボレーションする機会も生まれそうで、ワクワクしています。

 

尾内:僕も参加者としてとても楽しめました。横の繋がりもできたしね。企画メンバーみんなの力を合わせてひとつの目標に向かって進んでいけたのもよかったですよね。

 

瀬口:そうですね。デザインや文章、周囲への声かけなど、皆さんの特技の掛け合わせでイベントが生まれていったのを実感しました。お互いの違いを認め合いながら、個々の持ち味を生かして企画ができたのではと思います。

 

 

5. 浜松を盛り上げるプロジェクトチーム!ドコデモアルトに乞うご期待

 

 

中村:今後も、ドコデモアルトのプロジェクトは場所を変え、企画メンバーを増やして続けていく予定です。次回もみなさん4人には関わっていただけそうでホッとしています。

 

尾内:次は今回の反省も活かして企画を進めていきたいですね!ドコデモアルトが出展者や来場者に何を訴えかけたいのかをもう少し明確にしてイベントを考えられるといいのかな、と思っています。そうじゃないと、来場者さんや出展者さんにも失礼だしね。

 

金田:最初に中村さんが言った通り、「ドコデモアルト」はイベント開催そのものだけではなくて「企画を経験すること」がひとつの目的でしょう?今後はそういう経験を積みたい人にもメンバーに参加してもらって意見をもらえたら、よりいっそう盛り上がりそうですよね。

 

中村:実際に、今回の出展者さんの中からも「次は企画に関わってみたい」という声をいただいています。

 

瀬口:そんな風に言ってくださる方がいるのはとてもうれしいですね!企画として参加される方が多いほどイベント内容が濃くなること間違いなしです。

 

常石:今回のイベントだけでも2倍、3倍どころか、2乗、3乗のご縁の広がりを感じました。企画に興味のある方の力を借りながら、「浜松でいちばん行動をしているプロジェクトチーム」くらいの気概で、今後も活動を続けていきたいですね。

 

尾内:そうそう。ドコデモアルトの企画をさらに研ぎ澄ませて、将来的には全国のアーティストさんから「参加したい」と言ってもらえるようなイベントが企画できたらいいですよね。「なんかおもしろい企画を次々と打ち出すすごいアーティスト集団が浜松にいるぞ」ってね。

 

中村:そうですね。ドコデモアルトは、浜松A&Cの設置目的である「浜松をアートの力で盛り上げる」という想いにも親和性のあるプロジェクトだと思っています。
引き続き、アーティストのみなさんと一緒に次の企画を進めていきます。今後もドコデモアルトの活動にご注目いただけたらうれしいです!

 

 

(企画・文:瀬口あやこ(あにぃ))